LUCIA
2009年10月03日
書いても書いても終わらない。
これ……プロローグのつもりなんだぜ……?
ネタです。色々なSSを読んでいたら書きたくなったオリジナル小説もどきです。
ジャンルはファンタジー。
まだ書き終えてないですが、書き終えてからUPすると結構な長さになる気がするので二分割形式で。
続きを読むでどうぞ。
これ……プロローグのつもりなんだぜ……?
ネタです。色々なSSを読んでいたら書きたくなったオリジナル小説もどきです。
ジャンルはファンタジー。
まだ書き終えてないですが、書き終えてからUPすると結構な長さになる気がするので二分割形式で。
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異常なまでに成長した植物に身を隠すようにしながらも、一人の青年と二人の女性が虎視眈々と魔物の隙を狙っていた。
魔物は鳥のような、或いは狼のような、或いは蛇のような、そんな複雑且つ奇怪極まりない姿をしており、その姿を見た事がない人々には恐怖を齎すのであろうが、三人にとってその姿は明日への糧になる餌でしかなかった。
「――――” ”」
魔物が小さく欠伸をしたのを見逃さなかった。青年は魔物の気が緩んだ瞬間を見つけると、小さく、鋭敏な魔物ですら気付かぬような独り言を呟いた。それは発言としては意味を成さぬものであったのだが、青年と共に過ごしてきた彼女らは青年の機敏を察して、自然と意識を集中させ――――
「参るっ!」「行くにゃっ!」
叫んだ。
叫んでしまった。
態々隠密に徹していたというのにも関わらず、叫んでしまうとは何事か。
青年は”狩り”ではなく、”戦闘”になってしまった親友である女性二人の行動に頭を抱え、小さく溜息を吐いた。
されども彼女たちに対する悪態は吐かない。吐いても仕方ないのもあるのだが、それよりも今は彼女たちの支援に入らなければ。
逃げられなければいいなあ、とか思いながら青年はすぐさま支援の魔術の詠唱を”心の裡”で呟き、二人の友人たちの援護に集中し出した。
「無事に勝てたのが奇跡だと思うよ、僕ぁ」
「すまない……」
「ごめんにゃー。でも”けっかよければすべてよし”にゃのにゃ」
せめて愚痴の一つでも漏らさねば気がすまないのだろう、青年が魔物――――合成獣の一種であるキメラの亜種の”核”を取り除く作業をしながら、二人に戒めるようにそう呟いた。
青年の咎めるような独り言は戦闘後の冷め切らない昂揚感を冷めさせるには充分だったようで、二人が二人とも一瞬身体を震わせ、謝罪の言葉を漏らした。
しかしながらその謝罪は一人は心からのものであり、一人は言葉だけなものであった。
謝罪を心からした女性の名はリューナという。絶世の美女、とまでは行かないまでも美しい顔立ちをしていた。しかしながらその鋭い、鋭利な刃物を思わせる瞳は戦ごとを経験していない村娘に付属されるものではなく、彼女が戦士のそれであることを証明し、尚且つ彼女の美貌を”可愛い”ではなく、”美しさ”として助長させていた。
また、彼女は戦士としての性格を備えた彼女はその身体は、見るものが見れば劣情を覚え、また尊敬の念を抱くものがいるほど引き締まったものであった。彼女の身体は成長するにつれて戦に最適化されたように成長しており、贅肉という概念が存在しない。並みの男では持つだけで精一杯な重量の片手剣を難なく扱いながらも、同じく扱うだけで疲労を積み重ねる鱗の盾を背中に携え、時に剣とは逆の手に持ちながら戦う事をしていた。
そして、彼女は戦士でありながらも、また女性としての母性も非常に豊かであった。戦士として身体が引き締まっていく一方、彼女の母性は成長するに従って豊満になっていき、今では世の男どもがその母性を見るたびに夢想しておかしくないほどには成長していたのだが、彼女にとってその母性は嬉しくもあるような、邪魔でしかないような、そんな複雑な思いを抱いていたのは余談でしかなかった。
しゅん、という擬音が当てはまる落ち込み方をしているリューナとは対照的に、余り反省していなさそうな口調で言った女性の名はニャルという。ニャルラやらナイアルラなんとかとは何の関係もない事は余談でしかないのでここでは割愛するとして、彼女はリューナとは対照的な美女であった。美しい事も美しいのだが、やはり彼女に対する一般的な評価は可愛いのそれであり、幼いのそれでもある。別に容姿が幼いわけではないと、彼女のプライドを傷付けぬように先に述べておく。彼女が幼いと表されるのは性格のそれであり、生真面目な性格なリューナとは違い、ニャルは気紛れで気楽で楽観的な性格であった。
彼女の身体もまた、普通の村娘とは違うそれであり、引き締まったリューナとは別の意味で戦士としての素質を備えていた。いや、どちらかといえば彼女の身体は機敏な”狩人”のそれか。生まれもった高い身体能力を最善に活かすようにしなやかで、女性からすれば羨望の眼差しを向けられるだろう美しい肉体の持ち主であった。リューナの葛藤を助長させるわけではないので先に断っておくが、リューナはリューナで美しいのだ。ただ、前述した通り、彼女の身体は一部を除いて、女性が羨む身体というよりは戦士が、剣士が羨むような身体なのだ。
閑話休題。
対照的な二人の謝罪の言葉を聞いた青年――――カイトは、「いいけどね……」と深い嘆息を吐き、核を取り除く作業に集中する。別段、彼女たちをそこまで責めるつもりでいったわけでもないし、精一杯の抵抗のつもりで呟いただけの言わば愚痴でしかない。それ以上に、これ以上言うだけ言ってもリューナだけが反省して、萎縮するだけでしかないのだ。ニャルに関しては別の”愚痴”(ていこう)をしてやろうと密かに決意し、キメラの肉体を慣れた手際で解体していく。
腸を取り出し、持ち込んだ鉄串に巻いて地面に突き刺し、肉の中を時に乱雑に、時に丁寧に掻き乱しながら、核があるだろう部位まで黙々と両腕を潜らせる。
「ん……あ、これか」
独り言が癖になってしまったカイトが、核の場所を突き止めたことを知らせる事を呟くと、萎縮していたリューナは一転して、満面の笑みで隠そうとして隠しきれないながらもカイトを見つめた。彼女は性格上、こういった細かい作業が出来ない。勿論、ニャルもできない。それはさておいて、”核”を取り除く作業を淡々とこなすカイトを尊敬の念と、それとは別の理由で頬を赤くしながら見つめていたのだが、ニャルが暇そうに地面に突き刺した腸をぐるぐる回して遊んでいるのが視界の端に見て取れた。
本来ならそれを咎める為に怒鳴るところなのだが、それをしなかったのは偏に経験がそうさせたのだろう。今回とは別の魔物を狩った時にもこうして暇を弄んだニャルが殺した魔物の部位で遊んでいてそれをリューナが咎めたのだが、幼く気紛れであると定評のあるニャルが一度の叱責で遊ぶことを止める事をするはずもなく、喧嘩に発展して、喧嘩と表すには些か物騒すぎる喧嘩が始まったのであった。勿論、繊細の作業をしているだろうカイトには迷惑をかけないように”喧嘩”をしていたのだが、最終的にカイトがキレた。普段は温厚なものほど怒らせると怖いものはないというし、日頃から蓄積された極小のストレスが暴発したのであろうが、れにしたって怖すぎたのである。
ニャルに至っては完全に猫と化してしまって、言語が”にゃにぃにゅにぇにょ”の五つに限られてしまうほどに怯えてしまったのだ。リューナは戦士の矜持で退行を起こす事はなかったものの、二度とカイトの箍を外させないようにしようと決意したのだ。無言で距離を詰めるカイト、無言で魔術を使用しまくるカイト、一週間口を二人に口を利かなかったカイト。二人にとって何が一番辛かったかはあえて明記しない。
兎も角、そういうわけでリューナはニャルの行動を咎めることはせずに、ニャルの遊びを視界から外しただただ一途にカイトの行動を見つめていた。ニャルを今回咎めていれば、恐怖の再臨に慄くことは無かったのであろう事を後で悔やむことになるのだが、それはまた別の話である。
「よし……取れた……………………えーと、赤か……」
傷一つなく”核”を抜き出すことに成功したカイトであったが、その顔は落胆のそれであった。これだけ苦労して敵を倒したのにも関わらず、得られる報酬が少ないのだ、それも仕方の無い事であった。
本当に苦労したなあ。
先程の戦闘を省みる。
奇襲を仕掛けようとしていたのにも関わらず二人が声を出してしまったところまでは気分の良いものではないが、想定の範囲内ではあった。想定の範囲内で済まされてしまうことが少し悲しくなるが、それはさておいて。結局奇襲ではなく普通に遭遇したと同様にキメラと戦闘になったのだが、途中、ニャルが戦闘の高揚感で興奮し過ぎてこちらとの連携が取れなくなってしまったのだ。しかも、支援の魔術を掛けた直後と言う事もあって、もう正に手に負えない状態。ニャルの戦法がリューナのように素直なものであったならば良かったものの、彼女の戦法は奇を衒ったものであったが故に、下手に援護しようものならばこちらが損害を被ってしまうのだ。かといって、援護をしなければニャルが危険という事もあって、カイトとリューナは味方であるニャルの攻撃を受けないようにキメラを倒さなくてはいけないと言う、訳の分からない戦闘になってしまったのだ。
はぁ、と深く溜息を吐き、暇だからと鉄串に巻きつけた腸で遊んでいるニャルを睨む。その視線にニャルはすぐに気付き、遊んでいた鉄串を再び地面に突き刺し、近付いてきた。
「カイト、終わったのかにゃ?」
「終わったよ。ニャルの所為であんなに苦労したのに、赤だったけどね」
「にゃにゃっ……」
勿論、そこまで深くニャルの行動を責めているのではない。ちょっとした愚痴程度の返し言葉だったのだが、流石に気にしてはいたのだろう。ニャルの表情が固まった。
「ごめんにゃ、アイツ意外と強かったから……興奮してきちゃったのにゃー」
「いやまあ、確かに強かったけど……少なくとも僕一人じゃあ殺されてたね」
責めきれない理由の一つに、ニャルとリューナの強さがあった。というよりも二人がいなければキメラなどという高位の魔物を打倒する事など、今のカイトの実力では不可能だからだ。
それが悔しくもあり、情けなくもあったが。
「ま、二人とも無事だったから良かったけどさ」
そう言って、カイトは自分の中の陰鬱な思いを払拭するようにニャルの頭を撫でる。この行為自体に特に意味はないのだが、こうすると自分の悩みが軽くなる事もあってか、カイトは何かあるとこうしてニャルの頭や首元を撫でていた。単純に、こうするとニャルが喜ぶと言う事もあるのだが。
「うにゃにゃ~」
「…………くっ」
気持ちよさそうにカイトの手を受け入れるニャルのことをリューナが羨ましそうな視線で見つめていたのだが、カイトは結構な鈍感なので、その視線には気付くことが無かった。リューナもリューナで素直にカイトに言ってしまえばいいのだが、それが簡単に言えることならば、苦労はしないのである。
「カイト、キメラの残骸はどうするんだ!」
なので、若干語尾が荒いものになってしまうのも仕方の無い事だった。
「んー……どうしようか。赤だったからなあ、くそう……」
魔物を打倒して得られる報酬の一つが、体内に保有する“核”、正式な名を魔石と呼ぶ。魔石のことを簡単に説明してしまえば、それは魔物の第二の心臓と呼ばれるものである。第二の、と言うように魔物にだって普通に心臓はある。魔物と呼ばれる存在は、どういう経緯かはたまた誰かの策略なのかは分からないが、命を司る心臓と魔力を司る魔石を持っているのだ。だからこそ魔物という存在は厄介極まりないのでもあるのだが、それはまた別の機会にしよう。
ただ、勘違いしてはいけないのだが、あくまで中型から大型の魔物を打倒した際の主な報酬が魔石なのである。小型の魔物に限って言えば魔石を抽出する事は至難の業であると同時に、打倒した際に魔石が傷付いているのが殆どである。魔石が傷付いてしまえばその価値はゼロと同じであるのだから、小型の魔物を打破したときの報酬は魔物の肉体的特徴そのものであるのは言うまでのない。
次に、魔石の価値についてだが、これは簡単だ。色で価値が決まるのである。先程、魔力を司るのを魔石といったが、魔力の含有量によって色合いが異なるのだ。低い順から赤、青、緑、白、黒、銀、金、透明色となる。金銭――――Gに換算すると、換金所の相場にもよるが、凡そ十、五十、百、千、万、十万、百万、千万、億となる。
本来ならば魔物の強さに応じて(といっても、魔物の種類ごとに差はあるが)魔力の含有量も増えてくるのだが、カイトたちの住まうこの地域ではそれが当てはまらず、どれだけ強い魔物を倒したところで結局は摘出するまではわからないのである。
だからこそ、カイトが魔石を取り出したときに落胆したのだ。
これだけ強い魔物を倒した報酬が、これっぽちなのかと。
これは蛇足に過ぎないのだが、他の地域でこの強さの魔物を倒していれば、確実に白の魔石が手に入る。
「…………リューナ、キメラって何か使い道あったっけ?」
他の魔物ならば何処を持ち帰ればいいのか理解できるのだが、キメラという中々遭遇する事の無い魔物であるが故に、そういった知識を得る事が出来なかった。とはいえ、カイト自身にその知識がないのなら仲間に聞いてみようと、ニャルとリューナの二人を交互に見て、リューナにそう訊ねた。先にニャルに視線をやったのにも関わらず、リューナに訊ねたのは色々な要素が重なった結果であって、決してニャルが信用できないわけではないので悪しからず。
「……すまない、私はそう言った知識に乏しいんだ」
「んー、ニャルは知ってる?」
まあ、リューナも知らない事はあるよなあ、と納得して、余り期待していないでニャルに問いかける。
「知ってるけど」
「おお!」
期待していなかっただけに、ニャルのことを見直したと言わんばかりの眼差しでニャルを見て、嫌な予感がした。
「にゃんでカイトは最初にニャルに訊かなかったのにゃー?」
「う……」
どう見ても知ってそうには見えないとは言えなかったカイトである。
他人に疎いカイトでも、これぐらいの事はわかるのだ。
「ニャルが知ってると言ったときのカイトはニャルを見直したときの目だったにゃ。そんにゃにニャルが馬鹿に見えたのかにゃ。こー見えても、ニャルは村で三番目の“錬金術師”なのにゃ」
「ごめん、ごめんってば。そうだよね、見た目と反してニャルは頭良かったもんね」
誰がどう見ても怒っているニャルを治めようとカイトは言葉を発するが、どう見ても墓穴を掘っていた。と言うか墓穴を掘って地雷を踏んでいた。
「――――がぶっ」
自業自得とはこの事で、ニャルが一瞬目を細めると次の瞬間にはカイトの首筋に顔を寄せ、その犬歯をカイトの首筋に食い込ませていた。
「痛いっ、痛いよニャル。爪が歯が尻尾がっ!」
「ニャルは傷付いたのにゃ。ニャルがバカだと思ってるカイトにお仕置きをしようと思うのにゃ」
「ーッ!」
「にゃぷにゃぷれろれろ」
「あははははは痛い痛い痛いはははははははは!」
「笑痛いの刑にゃ……がぶがぶ……がぶ……れろ……はふぅ……れろれろれろ……んっ……れろ……あんっ……」
「やめい」
途中から刑ではなく別のナニカに変わり始めたニャルの様子を察したリューナがニャルの首筋を掴んで引き離す。猫のように首筋を掴まれたニャルはすぐさま大人しくなったものの、その表情はどこか恍惚としていたのをリューナは見逃さなかった。故に、成敗と言わんばかりに拳骨を一度、二度、三度繰り返して何処に向けていいのかわからない怒りを発散させた。
勿論、ニャルが涙目になりながらリューナのことを精一杯憎たらしげに睨むが、怒りが発散された彼女に通じることは無かった。
「あーあ、べとべと……じゃなかった。んー、えーと、キメラはどうしようか、ニャルが教えてくれる知識にも寄るんだけど」
「にゃぁ。それもそうかにゃ…………アレ、何に使えたんだっけかにゃ……?」
「おい、ニャル。先程の言葉は何処にいった」
「ちょっと待つのにゃ、思いの他気持ち…………リューナ、痛いにゃ。羨ましいならリューナもカイトの事舐めればいいのにゃ」
「な、な、な」
「にゃにを恥ずかしがる事があるのにゃ。リューナも――――」
「カイトっ!」
「はい大丈夫です、僕は何も聞いてないしこの通り耳を塞いでいますので」
良くある事なので、特に問題は無いと言わんばかりに、リューナが一喝した瞬間にはカイトはその両耳を塞いでいた。だが、この様子だと大声で口論をするのだろう、リューナがここから立ち去れと手で合図をしてきたので、アイコンタクトだけで了解と伝え、カイトは一旦この場を離れる事にした。
「いや、何で森の中にいたのに洞窟にいるんだろうか僕は」
ある程度距離を取ったところでカイトは塞いでいた両耳を外すことにした。その瞬間、目の前の景色が変貌し、森林の景色は薄暗い洞窟になっていた。意味がわからないという次元ではなく、白昼夢でも見ているのではないかと自分の痛覚を確かめてみるが、信号が帰ってきたので夢ではなかった。
「……げ、転移魔法の罠踏んでるじゃん、僕」
状況の確認をしてから混乱をするという性質のカイトであったので、まず足下を確認してみればそこには丹精込めて作られた転移の魔方陣が存在していた。
「やー……これは酷い」
自虐の言葉を呟いて、自分の行動を振り返る。確かにリューナとニャルの方を見ないように歩いてはいたものの、足下まで見ないで歩かないのはどういうことか。最近の狩りが順調だっただけにこうしたところで気の緩みが出てしまったのかと反省と後悔をする。しかしその時間は数瞬のものにしておかなければいけない。現状はどうあっても危険の二文字に包まれているのだから。
「……エキナさんだったらまあ、助かるんだけど」
この魔方陣が誰が作ったのかという可能性を考え、まずは希望を描く。カイトが言うエキナという人物は、この辺りでは高度な魔力を保有する魔術士で、カイトを気に入っている女性である。が、その性格に若干の難があり、カイト自身が襲われかけた事は一度や二度ではなかった。しかしながらカイトを殺すような真似をする人物ではないのは間違いなかった。
逆に、この魔方陣がエキナのものでなかったらかなり拙い事になる。ただの魔方陣ならば兎も角、転移の魔方陣というものは相当に魔力と知識を保有していなければ扱えない代物で、魔物であるのならば高位の魔物……それも人語を扱えるほどに卓越した実力を持っている。そんな強力な魔物に太刀打ち出来るほどカイトの実力は高いものではない……というか即殺されるのがオチだった。
(リューナとニャルがいればなんとかなるんだから……変な話だよなあ)
沈む気持ちを振り払うように、先程別れた二人を思い、少し気を晴らしたところでこの場所にいるのは危険だと感じたカイトは、離れようと歩み始めた。
瞬間、先程まであった魔方陣が虚空へと散っていく。どうやら永続的なものではないらしく、一度きりの転移魔方陣であったらしい。そうして、その瞬間にこの魔方陣がエキナのものではないと判明してしまった。
今まで話してきた性格上、エキナはこういった真似はしないからだ。
(……まっず、死んだか。これ)
背中を流れる嫌な汗を感じながら、カイトは自然と気を引き締める。
(まあ、死にたくはないから頑張るけど……)
最善は自分の力で脱出する事。
最悪は自分が死ぬ事。
そう己に言い聞かせ、奥に広がる暗闇を警戒しながら進んでいく。誰かが助けに来てくれるのも良いのだが、この状況下ではそれも難しいだろう。カイトは自分の得物――――二つの短刀を装備する。
――――まあ、ここに来た時に比べれば気は楽かな。
自分がこちらに来たばかりの事を、思い出しながら。
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