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Fix a Rule Part2 ~魔法少女リリカルなのは~

2008年09月07日
 それは運命と呼ばれる物語とは関係ないお話。
 ただ少女の傍にいただけであった男の物語。
 
 主軸に交わる事もなく、主役になろうとも思わずに、毎日その手に持った大鎌で庭を整えたり、モップで床磨きをしたりする男。

 彼の名は佐倉翔也。
 
 いつの間にかこの世界にいて、どうして自分がこの世界にいるのかがわからない。
 

 そんな男と、金髪の少女――――フェイト・T・ハラオウンのお話である。


 ※※※
 この作品は”魔法少女リリカルなのは”の二次創作です。ですが主人公はオリジナルなので、閲覧される際はご注意ください。
 一種のパラレルワールドとして見た方が気が楽です。二次創作は須くそういうものですが。
  




























「…………どの世界も俺は俺に優しくねェなっ!?」
「ちょ、ちょっとっ!」
「五月蝿い金髪嬢ちゃん、死にたくなかったら黙ってろ!」

 突然だが、金髪嬢ちゃんことフェイト・テスタロッサは見知らぬ少年に抱きかかえられていた。
 何でそんな状況になったのかと訊かれてしまえば、フェイトにはわからない。
 自分は闇の書――――強いては夜天の魔導書と呼ばれる存在が放つ攻撃に被弾してしまい、その勢いで落下してしまったのである。別段、致命傷でもなかったのですぐさま親友の援護に入ろうと思った時には、何故かこうして抱きかかえられていた。
 
 ――――全てを蹂躙する光の束が、あちらこちらに降り注がれる。

 本来ならば、一般人であるならば回避できる筈もないその砲撃を、少年は自分を抱えながら楽々と回避していた。
 確かにこの砲撃は直線的で回避しやすいとはいっても、それは自分と同じような魔力を持つ魔導師であるからこそいえる話なのだが、自分を抱きかかえる少年は先ほどから一撃も当たることがなかった。

「大丈夫ですからっ、貴方こそ早くこの場から離れて下さいっ!」

 それでも一撃でもあたってしまえば少年は死んでしまう。だからこそフェイトは少年にそう叫んだ。
何気に恥ずかしい格好――――じゃなく、少年はどう見ても魔法使いではなかったし、バリアジャケットなど以っての他だ。いかに回避能力がずば抜けているとはいえ、一度でも命中してしまえば死に至ってしまうのだ。自分が被弾し落下してしまったが為に一般人を巻き込んでしまうのはフェイトにとっては苦痛でしかなかったし、悲痛でしかなかったのだ。

「黙れ黙れ黙らっしゃいっ! 心配するなら最初っから落ちてくるなこの純粋培養金髪少女! ていうかこの時点で離れようとしたら俺が確実に死ぬって言うか、死ぬ。つーかなんだよあの銀髪美女は、微妙に好みで余計にムカつくっていうか――――うげぇっ!?」

 だが、少年はフェイトの言葉を心底ウザったそうに返してきた。流石にその言葉に苛立ってしまったのだが、しかし次の瞬間にはフェイトの表情は悲痛なものに変わる。
 周囲を注意深く観察しながら走っていた少年であったが、砲撃の余波で出来てしまった石に躓いたのである。そしてその隙を夜天の魔導書が見逃す筈もなく、砲撃の準備に入り――――撃ってきた。
 
「クソッタレ……っ!?」

 いや、それだけならフェイトの顔もそう悲痛なものには変わらなかったのかもしれない。先ほどまでは少年の為すがままに抱かれていたのだが、自分が彼を庇うように行動してしまえばそれで良かったのだ。

「うらああああああああっ!」

 だが、彼がしたことと言えば、自分を庇うように投げ飛ばしたのだ。
 砲撃の直撃からは自分だけは守ろうと。

 抱えられただけなら助けられたのだ。しかし、こうして投げ飛ばされてしまえば少年を抱えて空に逃げることも叶わなくなってしまったのだ。
 いや、正直に言うならば助けられた。自分が戦線離脱してしまうことを省みなければ。
 だがそれが出来なかった。ここで自分が離脱してしまえば闇の書を止めることなど出来ないと思ってしまったから。

 だから、当然のように少年は砲撃に巻き込まれ、自分はこうして何事もなく地べたに尻を付いている。

「……ぅ……あああああああああああああああああああああ!」

 ――――バルディッシュ・サイズフォーム。
 ――――Yes.Sir

 叫びは闇の書と自分に対して。
 
 何故、無関係な人を殺した!?
 何故、少年を助けなかった!?

 怒りと悲しみが氾濫するフェイトは大声で叫ぶ事しか出来なかった。視線の先には、再び魔法を放とうとしている闇の書がいた。
 それでもフェイトは動けない。
 このまま自分に直撃するとわかっていても、フェイトの足は動こうともしなかったのだ。
 が、

「泣くな動けこのバカ娘っ!」

 そんなフェイトを突き動かしたのは少年の声と足であった。具体的には一喝された後蹴っ飛ばされたのだが。
 
「ふぇ……ふぇええ!?」
「どんな生物の鳴き声だよそりゃ」
「し、死んだんじゃないんですかっ!?」

 あれ、目の前にいるのは幽霊?

「勝手に人を殺すなボケ。準備時間満載な広範囲砲撃……砲撃? なんぞで死ぬか。つーかなんだその鎌、かっけぇなオイ貸してくれよ」
「ダメです! バルディッシュはわたしのです! というか借りてどうするつもりですか!?」
「ムカついたからあの美女ぶった斬る」
「魔導師でもなんでもない貴方が出来るわけないじゃないですか!?」
「じゃあ早くあの美女ぶっ倒して来いよ!」
「言われなくとも行ってきますよ!」

 心配して損したとも言わんばかりに、フェイトはすぐ空に飛び立つ。

「あーもう二度と落ちてくるな魔導師! っつーか下着見えてるぞ!」
「っ!?」
「なんて運のねェ日だよ…………」
「心配しなければ良かった……」

 本当に。

 フェイトには珍しく心の内でそう毒吐きながら、闇の書に向かっていった。

「…………マジで死ぬかと思った」

 蹂躙された少年の左半身に気付くことなく。


 これが何の関係も無い少年――――佐倉翔也と、フェイト・テスタロッサの最初の出会いであった。
 




 次の邂逅は事件も一段落着いた頃。
 フェイトはなのはと共に新たな親友である八神はやてのお見舞いに海鳴大学病院に来ていた。

「――――え?」

 隣を歩くなのはと話をしていると、見覚えのある少年の姿が視線に入り、その場に立ち止まった。
 
「フェイトちゃん、どうしたの?」
「え、えと……その。なのはにも言ったよね、あの時の事……」
「……あの時、って変な男の人がどうたらっていう?」
「う、うん。その男の人に似ている人があそこに……」
「あの男の人……?」
 
 なのはの指差す先には、松葉杖と格闘している少年の姿があった。
 
「……なんで、怪我してるの?」
「え……それは」

 フェイトこそ聞きたかった。
 少なくとも最後に会話をしたときには、ぴんぴんしていた筈なのだから。

「…………ああああ!?」

 していた筈、ではない。
 あの時は雰囲気に身を任せて彼のことを気にしていなかったが、あの時の光景を思い出してみれば確かにあの少年の様子はおかしかった。
 いや、性格はヘンだが。
 それではなく、何故か半身になってこちらを向いていたのだ。

「左……いや、右、右…………え、う、嘘でしょ?」
「フェイトっ!?」

 思い出してきた。というよりもあの時の自分は何故気にしなかったのか。
 赤い液体が見えていたことに。

「…………ぅ……あ、……ああ、」
「――――病院内では静かにしろって、教わらなかったのかこの金髪少女!」

 ぺちでもなければこつんでもなく、耳に届いた音はガスッであったと、隣にいるなのはは後に語った。
 『物凄く痛そうだった』とも。

「始めましてそちらの茶髪少女。ところでなんでこの金髪はこんなにも五月蝿くなりそうになってるか教えてくれると助かるんだが」
「あ、はじめまして。高町なのはです………………あれ?」
「ご丁寧にどうも。俺は……佐倉翔也っていうんだ。まあ忘れてもらって構わない」
「は、はぁ……」
「さて金髪。落ち着いたか、落ち着いたなら静かにしろ」 
「何をする――――もがもが」
「静かにしろっつってんだろが。ここは病院で公共の施設だ、オーケィ?」

 こくこく、と頷く。同時に少年――――翔也に対して怒りがこみ上げてくるのは仕方ないとフェイトは自分を諫めることにした。

「……どうしたんですか、その体」

 そして次に出てきたのは当然の疑問。

「どうしたって言われてもなぁ……。どうしたって言われたらお前は罪悪感を背負わずに済むか答えてくれればその通りに答えてやるが」

 返ってきたのはあの時の答え。やはり彼はあの時に重傷を負っていたのだ。
 それもそうだ、彼の回避能力が幾ら高くとも、体勢を崩した状態であの砲撃を避けられるほど世の中は甘くない。
 そう結論付けて、フェイトは再び思考の渦へと身を浸していく。その渦は後悔、自戒、悔恨など、自己に対する様々な負の感情。
 その渦に自分から入ってしまえば、自分で出てくる事も、他人が救い出すことも難しい。
 

「お前はすぐに自分を責めようとするから先に言っておくけどよ、俺は別にお前の所為で傷を負ったわけじゃねぇ。これは俺の運のなさが招いた結果であって、お前が気にする必要はねぇ。つーか気にしたら今みたいに松葉杖アタックしてやるぞコラ」

 が、少年は自己嫌悪という名の渦からフェイトを救い出す。勿論、少年が特別だというわけではない、簡単に説明してしまえば偶然という二文字で済んでしまう。

――――それでも、その“偶然”を、或いは“奇跡”を起こすのが目の前の少年だと、フェイトは成長してから実感する。

「でも……」
「でも、じゃねぇっつーの。じゃあ何か、お前は俺に責任を感じて医療費でも払ってくれるのか? それをやられたとしても俺は嬉しくもなんともねぇし、そんなことされた日にゃあ、その医療費をパソコンパーツに変えてなのはちゃんにくれてやンぞ」
「え、本当ですか!?」
「……え、何。嫌がらせのつもりが喜ばれちゃうのこれ」
「えーと……なのはは、その」
「ああ、珍しい性癖なのか」
「せいへき?」
「家に帰って親御さんに聞いてみるといい」

(ふふっ……)

 フェイトは心の中で優しい笑みを漏らす。
 なんだか、彼と会話をしていると自分がバカらしくなってくるのだ。自責の念が強いフェイトは、彼の屈託のない笑顔――――屈託というよりは、無邪気である――――を見ていると、なんだか自分がバカらしくなってくるのだ。
 
「まあ真面目な話。お前が俺に罪を感じてるとでもいうんなら……そうだな、俺がどうしようもなく困ったときにでも手を差し伸ばしてくれればいい。その頃には俺、野垂れ死んでるかも――――」
「はい!」

 言われなくとも恩は返す。
 それはフェイト・テスタロッサの生き方であり信条だからだ。

「……じゃあな金髪少女。隣でトリップしつつあるなのはちゃんにもよろしく言っておいてくれ」
「フェイト・テスタロッサです。貴方の名前は?」

 そして釘を打つのを忘れない。彼との繋がりが断ち切れないように、しっかりと打っておかなくては二度と会えないような気がしたから。
 彼もそれがわかっていたのか、自分に対して名乗ろうとしなかったのだろう。

「…………じゃあな、フェイト。佐倉さんとでも翔也さんとでもまあ好きに呼べばいい」
「はい、翔也さん!」
「……じゃあな」

 彼はそういって松葉杖を付きながら去っていく。

「医療費ってどのくらいかわからないけど、きっといいパーツをもらえるんだろうなあ」

 最後にオチを付けてくれた親友の延髄を叩く事は、フェイトの役目でしかなかった。










 これが二度目の邂逅。
 そして三度目は、数年後。
 フェイト・テスタロッサがフェイト・T・ハラオウンになって、管理局に執務官として勤め始めてから数ヶ月後の事になる。


 


 ――――人が倒れていた。

 第97管理外世界――――地球――――に任務で来ていたフェイトは、仕事を終えたところで久方ぶりに海鳴に寄って行こうと思い、道を歩いていた途中、道端で倒れている青年の姿を見つけた。

「浮浪者……?」

 フェイトの思ったことは恐らくは正しいのだろう。
 服は解れ汚れ破れていたし、青年自体も瀕死の状態であった。何故この世界でこのような状態をした青年がいるのかフェイトは疑問に思ったが、次の瞬間には彼女の本質である優しさとかお節介だとかそういう部分が、青年の傍に駆け寄ることを命じた。

「ぅ……」

 異臭が鼻を刺す。
 普通の人間ならそれだけで近付くのを止めるのだが、フェイトは僅かに顔を顰めただけで青年に声を掛けた。先ずは意識の有無の確認を行ってから次の行動を決めようとしていたのである。

「大丈夫ですか?」
「あ…………」

 青年はこちらの声に反応し、潜めていた顔を上げた。服と同じように顔もやはり醜くなっていた。
 だが、そんな醜い青年の顔に、フェイトは何処か見覚えがあった。いつだったかは思い出せないが、何処かでこの青年と会ったことがあるような気がしてならないのだ。

「き……ん……ぱ……つ……?」

 それは青年も同じだったようで、呂律が回らない舌を懸命に駆使して、その四文字を放った。
 だが、フェイトはその四文字で昔のことを思い出した。
 日常の中にあった非日常の僅かな邂逅のことを。

「佐倉、さん?」
 
 靄がかった記憶を手繰るようにその単語を口に出すと、それをきっかけに彼との出会いを思い出した。

「佐倉翔也さん……ですか?」

 それはまるで連鎖反応か。改めて青年の名前を口にすると、霞の向こうにあった思い出は鮮明になってくる。
 主に殴られたり蹴られたりする記憶が強かったが。

「…………おれ、……は、たしかに…………そ、だけ…………ど」

 本人であると確認が取れてしまえば、フェイトは行動に移すだけであった。
 彼を背負い――――余りの軽さに驚愕したが――――この世界での拠点としているホテルへと向かったのである。

(それにしても……)

 ――――その頃には俺、野垂れ死んでるかも。

 本当に野垂れ死にそうになっていると思わなかったフェイトは、心の中で苦笑するしかなかった。 


















 続く……のか?
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